その子育て論は科学的に正しいんですか
カテゴリー[ 書籍メモ楽屋用 ] 2008/10/28

『その子育ては科学的に間違っています』
国米欣明 著
三一書房 (2007/11/5)
この本は、読む必要はないと思う。
かなり科学の使い方がおかしい。
だのに、版は三版を重ねるという「評判の一冊」であるらしいところがなんとも頭痛い。
こんな本は、普通は一行評もせずにスルーするところなんだが、あとがきにこんなセリフをのうのうとお記しになっているんで
したくなってしまった。これさえなきゃね。
p.186
本書の編集方針
本書の編集にあたっては、個人的な主観や、思い入れや、従来からの常識や、既成の概念を排除して、あらためて根拠のしっかりした事実だけを重視することにしました。そのため、一部に「総説」という手法を用いました。広い範囲にわたって、できるだけ多くの正確な情報を集め解析する手法です。
集めた情報は1000を超えました。そのうちの確度の高い多くの事実を貴重な礎石にして、本書は構成されています。
こんだけ主観や思い入れ並べといて、どの口(手か)が言うとんねん!!
... 以下つづき...
...
論調は、とにかく恣意的、操作的。科学的な記述とは一線を画している。
例えば
2006/11 男の子の脳、女の子の脳:だまされるなよ
2007/10 「99%遺伝子でわかる!」はひどい本だよね?
2005/06 恋愛心理学の変な進化心理学
あともろもろ「ビミョーな科学ブラフ本」の域を出ていない。
たぶん親御さんらは細かいところを検証する能力もなくありがたく信奉なさるのだろうけれど、これで「確実に安心できる子供が育つ」かどうかとなると、かなりギャンブルに近い香りの結果になるんじゃないだろうか。
「親が一方的に安心できる」ツールとしては、まあ便利かもしれない。実効性はともかく、親は実効性以前に「自分用の安心ツール」が欲しいんだもんな。w
●全編貫くのは、脳科学マンセー。
●記述はロボットのしつけっぽい。巷の育児ナマ感とはかけ離れた「他者操作」感。
●集めた情報1000程度で自慢になるらしい。
●ちょこちょこ「ト」な論拠が顔を出す。
●抑制力と記憶力は別物なのかp.16
感情記憶とエピソード記憶はまた残り方が違うのではないか
●一歳までの抑制力発達と、その後のパーソナリティの相関は、しかと研究結果は出ていないと思うぞ。主観と思い入れで書いてないか。
●育児方法の変遷と社会的環境要因はかなり複雑に作用しているので、状況の変化を「育児法」にすべて帰すのは無理があるぞと普通つっこまれないか・・・ていうか、そうか、反論異論のさまざまを紹介しない一方的な記述だから、この本は気持ち悪いのか。
●p.49ペスタロッチ書簡の紹介 持論に都合の良いものだけを都合よく引用。なんとも取って付けたような・・・
●p.54 この人は文化人類学には親しくないらしい。大人の規範とは別個に、若者組など、特定の年齢層で脈々と受け継がれる確たる倫理規範は多々存在する、そんな知見はどうでもいいらしい。
●p.89 サピア=ウォーフの誤謬。「人間は言葉を介してしか物ごとを考えることができない」と断言なさる。でもって、いまどきアヴェロンの野性児を持ち出すし。

●p.58 悪い子育てをすると「人殺しをするような子に育つ」という短絡記述。なにこれ。w
●p.131 ゼロトレランスと割れ窓理論を中途半端に紹介して、厳罰化が殺人を減らすのだと短絡するように誘導している。
ニューヨークの事例に関しては、 ほかの要因などさまざまに「ちゃうんちゃう」指摘がなされているのだが、そんなこたおかまいなしらしい。好子・嫌子の行動矯正、行動主義的解釈なんてなどうでもいいらしい。「厳しいしつけ」を提唱する上で都合の良い解釈だけを紹介している。
p.132
最近、日本での死刑の判決は極端に少なくなっていました。
死刑の判決は特に慎重になされ、特別凶悪・悪質で原則3人以上を殺さない限り死刑を宣告しないという方針がとられてきたからです。量刑の上で、1983年7月8日の永山判決以来、判例をもとにこのように死刑が慎重に扱われだしてから、日本法の殺人罪は「一般予防」としての価値を大きく失いました。
[〜中略〜]
殺人者には、まず「更生のチャンスはない」と量刑基準を変えたとしたら、多くの殺人行為は目に見えて減少する可能性がないとはいいきれません。
これは、よいか悪いか、死刑廃止か否かの議論は別にして、それがゼロ・トレランスの「一般予防」の効果です。
目下の問題は、犯罪発生率ではなく、社会不安、つまり大きく報道されやすく影響の大きい犯罪の種類にどう対処するかだ。
死刑があるからこそ、最近の大量無差別殺人が誘発されているのであり、
しかも「日本は死刑を執行しすぎだ」と国際世界から非難されているんだが。
2008/10 【日本語記事】朝日新聞 日本の死刑・代用監獄に批判相次ぐ 国連規約人権委審査
2008/05 【日本語記事】共同通信 死刑執行数は世界11位 アムネスティ、日本を批判
世論関係なく死刑廃止を、と勧告
2008/10 【日本語記事】読売新聞 死刑撤廃の検討勧告、国連委が日本政府に
親御さんはこの「科学的な育児指南書」を読んで、どんな感想を持つのだろう。
真に受けて崇めるんだろうか。

基本的に、異分野の論者とあまり交流ができていないんじゃないか。
「それ軽々に書いたらあかん」と速攻で指摘が入るようなことでも、しらっと大きな顔で書いてしまっている。ふだんツッコミの風通しが良くない人的環境にいるのかな。
これなんか、実証研究以前に、記述そのものがやばくないか?
p.105-106
●顔の表情にも関係している
_眼窩前頭皮質の発達した子は、顔の表情にも現れます_。目が輝いていて、話しかけるとじっとこちらの目を見つめて、話の内容を理解しようと一生懸命注意を集中させ、顔の表情も生き生きとしています。眼窩前頭皮質の未熟な子は、目に輝きがなく、話しかけても注意力が乏しく、話の内容を理解したかどうかも分かりません。顔の表情はいたって無表情で、何を考えているか分かりません。
ぜんぶがぜんぶ悪いってわけじゃない。たくさん情報を集めて、それを個人的な主観や、思い入れでソートしてあるだけだ。 まあ、たいがいのトンデモ本にしても、内容ぜんぶがぜんぶ「ト」ではないわけで、”正しいことも記してある”と言っても全然状況はましにはならないわけだが。
p.65
_何も教えられていない、何も知らない子を、いきなり叱るほど無謀なことはありません_。
それは自己抑制力のトレーニングには何の役にも立ちません。子ども心に不当に叱られたと思い、大きな不満を残し、場合によっては心的外傷にもなりかねませ秘そのような子どもには、前もって、よく教えることが必要です。叱るのは次の段階の話です。
↑このくだりには首肯するよ。
早く親死ねと呪う毎日だ。w

p.186
本書の編集方針
本書の編集にあたっては、個人的な主観や、思い入れや、従来からの常識や、既成の概念を排除して、あらためて根拠のしっかりした事実だけを重視することにしました。そのため、一部に「総説」という手法を用いました。広い範囲にわたって、できるだけ多くの正確な情報を集め解析する手法です。
集めた情報は1000を超えました。そのうちの確度の高い多くの事実を貴重な礎石にして、本書は構成されています。
↑ これさえなきゃ、この本は取り上げなかった。
トンデモ研究で著名な、M.シャーマーのこのぼやきを紹介して、この項は締めくくる。
我々をたぶらかす脳スキャン その5つの方法
2008/10 Scientific American Five Ways Brain Scans Mislead Us
Colorful scans have lulled us into an oversimplified conception of the brain as a modular machine
多彩なスキャンは、モジュール式の機械であるかのような単純化しすぎの脳概念に、我々を陥れる
By Michael Shermer マイケル・シャーマー

【ゼロトレランス理論の功罪】
以下はウェブで拾ったお勉強ノート。
割れ窓理論 - Sensr
ゼロトレランスは割れ窓理論とは似て非なるものである。割れ窓理論 - Wikipedia
統計を見る限り、秩序違反の状況と実際の犯罪増加のあいだには直接の因果関係は不明確
札幌市のゼロトレランス政策については以下のような批判がなされている。
* 客足が遠のき、すすきの界隈の商店、飲食店が閉店を余儀なくされ、シャッターだらけの廃墟のようなビルが増えた。
* 治安促進を推進していた商店街組合の会員の閉店・撤退により商店街組合の経営が悪化し、解散する商店街組合も出てきた。
* すすきの界隈では犯罪は減ったが、他の地域の犯罪が増え、市全体の犯罪は逆に増加した。292 :名無しさん 君の性差:2008/02/01(金) 00:13:19 ID:dtqsPupD
「ゼロ・トレランス・ポリシング」=小さな問題でも無寛容に徹底して取り締まること
これは犯罪に対し即効性があるので、すぐに検挙率があがる
その反面、簡単な注意で済む行為も罰するため、
安易に犯罪者のレッテルを貼ることにより、
社会更生の道を閉ざしてしまうことにつながる。
「コミュニティ・ポリシング」=安易に逮捕をせず、厳重注意のみに留めその後のケアに重点を置く
その後のケアというのもかなりの質の良いシステムが組まれており、
セラピーや教育プログラムによって社会更生した犯罪者も多いという。
ただ、この政策は効果が出るまでに時間がかかり、はっきりした数字が出ない。
そのため、特に治安が悪い地域ではまずゼロ・トレランス・ポリシングから始め、
多少治安が良くなったらコミュニティ・ポリシングに移行するケースが多い。
この二つの政策のどちらが良いと言う事では無く、
どちらも欠かす事の出来ないものであり、
割れ窓理論の適用と言う場合は同時使用を念頭に入れなければならない。
ゼロトレランスで人は救えない
日本交流分析協会関東支部会報 掲載記事 中尾相談室

[カテゴリ 書籍メモ楽屋用] : 2008年10月28日
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