特定の人のための生死観大全書

カテゴリー[ 書籍メモ楽屋用 ] 2008/02/23

◆左表紙

 『日本の生死(しょうじ)観大全書』
 立松 和平、山折 哲雄、宮坂 宥勝・監修
 四季社 (2007/11)

 [ Amazon ] [bk1]


 日本の生死観大全!
 なんとものものしい!
 しかも怒級の分厚さ、大仰さ。(ハードカバー664ページ、厚さはんぱない)

 こんなにすごい風体であるからには、なんぞ腰を据えて系統立てた分析と概観が記されているのかと思いきや。
 全然。

 中身は、一般大衆紙などに載せられた特集を拾い集めて編み直しただけのもの。

... これで生死観大全なのだろうか...

...
収載文献と初出誌一覧

第一部先人たちに学ぶ日本人の生き方

第1章よく生きた!絶唱の美学
 『別冊太陽日本人の遺書・辞世』昭和六十二年十月平凡社刊
 『現代のエスプリ文学に現れた遺書・遺言』平成十年五月至文堂刊
 『日本の名随筆遺言』平成四年七月作品社刊
 『日本人の遺言状』昭和十九年一月創藝社刊
第2章死の床で吐かれた名句たち −− 水上勉
 『別冊太陽日本人の遺書・辞世』昭和六十二年十月平凡社刊
第3章幕末維新を駆けていった人々 −− 合田一道
 『日本人の死に際 幕末維新編』平成七年十一月小学館刊
第4章『人間臨終図巻』からの名言 −− 山田風太郎
 『人間臨終図巻1〜4』平成十三年三月徳間書店刊
第5章永訣を染めあげた日本語の世界 −− 佐野あき
第6章昭和の遺書傑作選
 文藝春秋十月号 平成十二年八月文藝春秋刊
 『知識人99人の死に方』平成六年十二月角川書店刊
 『死の心境』昭和十二年十一月教材社刊

第二部語り継がれる不滅の哀悼

第1章慟哭の弔辞(文学者篇)
 『弔辞大全』平成十年楡書房刊
 『弔辞集成』昭和六十四年青銅社刊
 文勢春秋二月号 平成十三年十二月文勢春秋刊
第2章号泣の追悼(著名人篇)
 『弔辞』平成七年十月日本テレビ放送網刊
 『不滅の弔辞』平成十年八月集英社刊
 文勢春秋 二月号平成十三年十二月文藝春秋刊
特別メッセージ −− 日野原重明
『死と、老いと、生と』平成十一年中央法規出版刊


 客観的にデータとして載せられているのであればともかくも、たいへん通俗的に、浅く、偏向して、網羅されている(いや、これを網羅と言ってはいかんな)。

 散漫な上、立派な視野の偏りが成立してしまっている。
 大全じゃない。

 中身は活字大きめ。
 難解(若人向けの解説を欠いたパートが目立つ、ルビもない)。
 年寄り向けだ。
 古い世代の自己満足用にできているのだ。

 しかも。
 通俗向け。正確な考証などどこ吹く風。
 微妙なノイズを切り捨てて、通俗的なあしらいにかなうよう料理された、つまり、なんというか、死という奈落を奈落ではないかのように糊塗し大衆娯楽用にご都合死生観に零落したものを、大全であるとうそぶいてまとめてしまったような、そんな。(漱石の臨終もドラマチックに紹介されているが、勝手に脳を抜き取られて晒されることになった「故人の遺志無視」の経緯は無視)
 モトが悪いんだろうな。最初から編んだわけではなく、大衆紙から拾い集めたものだから、「日本最初の哲学的自死」やら「日本最初のピストル自殺」だの、カストリ紙か。w
 しかも。
 男ばかり。
 女の死生観はどこにあるのか。これで大全なのか。

 前書きでは立松和平が「旅である」などと一席お歌いになられているわけで、・・・乖離の度合いが潔い。

 カバー折り返しにはこんな文言が謳われている。

この本の効能

日本人が好きになる
老親の臨終期を励ますことができる
自分の病や老いに動揺しない覚悟が生まれてくる
永訣の文言を自分なりに表現したくなる
先人達を手本に悔いのない生き方を願うようになる


 いやいやいや。
 それはごく一部の層では、そんなだろう。
 編者の感覚では、そのようにみなせるのだろう。
 でもでもでも。
 全くそんな効用など現れない世代もいる。

 こんな有象無象がやり尽くしたことをまたやらねばならないのかと、げっそりさせられる。
 こんな死生観あしらいと同列に処理されるのかと、死に幻滅する。
 生者の愚かさに、絶望する。

 結局、これも千の風の一種だ。
 他者の死生観を弄んではばからない。
 何が効用だ。

 日本という表象に耽溺する旧世代の自己満足的ご都合主義。

 死生観を見たいなら、もっといい本は世の中にある。
 こんな物に金を払うな。



[カテゴリ 書籍メモ楽屋用] : 2008年02月23日 
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