アンドロイドの「不気味の谷」と感情の科学
カテゴリー[ 書籍メモ楽屋用 ] 2007/11/20
●巻末の対談の中、アンドロイドの「不気味の谷」について言及するくだりがある。
不気味の谷:完ぺきにそっくりか、実物の人間には見えない漫画的機械的デザインであれば、ユーザは抵抗感が少ない。ところが、その両者の間の、中途半端に人間に似ている状態になると、いきなり異様に気持ち悪く感じるホラーの世界に陥ってしまう。で、好感度の落ち込みを指して「不気味の谷」と表現しているらしい。
【追記:「不気味の谷」= ロボット屋さんの、森 政弘 氏(東工大・元名誉教授)が1970年に提唱したものらしい。】
その「不気味の谷」を語る中に、進化心理学的考察が一個も出てこないというか、「なぜ不気味の谷があるのか」考えもついていなさそうなところが、読んでいてたいへんヘナヘナに腰くだけ。
「ちょっとおかしいルックスの人間を異様に拒否する」感情反応はおもいきし進化的に形成されてきた。そんな話にいたらず尻つぼみ。
・・・つまり、この本は『感情科学』を銘打ってはいるけれども、『感情科学』を網羅はしていない、編者の視野だけしか集めていない、ということなのか。いや、不思議だな、「感情の進化」を担当した藤田和生氏はその対談に同席していたはず・・・じゃなかったのか? 「感情の進化」は進化心理学(進化疫学や進化医学など含む)とは無縁なのかな。なぜスルーだったんだろう。
『感情科学』
藤田 和生 ・編
京都大学学術出版会 (2007/08)
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●文化心理学に言及した各章がむちゃむちゃおもしろい。
『文化心理学からベーリンジアを望む:前編』
これに誰か、剛胆な神経の行動遺伝学究者が横槍特攻してきたらもっとおもしろくなるだろうに、日本ではそういう展開は無理目かな。
●たいへん新しいデータが多々列挙されていて、目がキラキラしてしまう。
... 以下つづき...
●集団主義の考察から、閉鎖環境要因(というよりは閉塞環境要因)につなげる話は
でひとしきり記したけれど、ほかにも
今村仁司, 今村真介 (著)『儀礼のオントロギー 人間社会を再生産するもの』 講談社 (2007/3/21)
p.64
たとえば、ブッシュマンは物を所有することに固執せず、それをもたない他人には実に気前よく与えてしまうという印象を与えるが、それは彼らが無欲だからというよりはむしろ、もたざる者から妬みや恨みを買うことを恐れるからである。
このあたり、江戸時代の「宵越しの金は持たない」と考え合わせるとおいしそうだ。
●第7章 文化と感情一現代日本に注目して[北山忍・内田由紀子・新谷優]
ここで頻出する「関与/脱関与」という表現は誰がこさえたんだろう。英語の表現ありきで、それにあてた訳語? やたら直感的にわかりにくい命名ではないか。
なんとかなんないのかな。それに限らず、この文化心理学界隈は、どうも研究者によって、こう、対比に使う概念だか呼称だかがまちまちなようで、ややこしい。
集団主義/個人主義、集団志向的/個人志向的、関与的/脱関与的・・・
このような概念もしくはくくりは、ゲーム理論のほうではまた違う呼称で扱われていたりするのかな。
●第3章 感情と言語[楠見孝・米田英嗣]
感情をあらわす擬態語の考察、感情を表現する際に伴う空間表現の分類。
腹が「立つ」だの、気分が「沈む」だの、ムラムラ、カッカ、しょんぼり、ウキウキ。
その一見ほのぼのした視点の中に、感情認識のヒューマンユニヴァーサルや認知考古学などに通底する広がりが感じられて、ほのぼのとおもしろい。

●感情の科学の本なのに、音楽と感情に関する考察は欠落している。
たいへん大きなテーマであろうのに、なんでだ。

日本では誰もやってないのか。
●巻末の対談の中、エクマンの研究で使われた表情モデルや感情設定が、日本の感情世界にそぐわないものであるという指摘。
ポール・エクマン
・・・自分は出島の異人の末裔であり、洋画を上映する映画館を経営する家で育った、んで、感情認識は欧米に近いかもしれない。
・・・ん?それでか?
感情科学◆目次
序[藤田和生]i
第1部●感情の基礎1
第1章 感情の機能を探る[遠藤利彦]3
1はじめに一感情観の移り変わり3
2個体「内」現象としてみる感情のはたらき6
2.1応急措置的デフォルト処理機構としての感情6
2.2ソマティック・マーカー一プランニングとその遂行をささえる感情のはたらき8
3個体「間」現象としてみる感情のはたらき12
3.1感情のコミュニケーション機能12
3.2感情の長期的利害関係におけるバランス調整機能15
4ポジティブな感情のはたらき18
5感情の顕在的非合理性・潜在的合理性21
5.1先行事象とのかかわりにおける非合理性・当該事象とのかかわりにおける合理性21
5,2短期的視点からみる非合理性・長期的視点からみる合理性22
5.3理想的環境における非合理性・現実的環境における合理性25
6おわりに一両刃の剣としての感情27
第2章 表情認知と感情[吉川左紀子]35
1表情と感情35
2見えやすい表情一怒り表情の知覚優位性38
3なににむかう感情か一表情知覚と視線40
4表情認知の神経機構42
5表情の動きと感情45
5.1表情の動きは知覚を変える46
5.2表情の動きは模倣的な表情を生じさせる48
6表情認知と感情一今後の研究にむけて50
第3章 感情と言語[楠見孝・米田英嗣]55
1感情の言語表現57
1.1感覚・運動レベルー共感覚比喩,音喩と換喩57
1.2スキーマレベルーイメージスキーマにもとづく比喩62
1.3概念レベルー感情のスクリプトと規範と比喩67
1.4まとめ一感情言語の階層70
2物語理解における感情71
2.1主人公の感情の理解71
2.2物語理解における読者の感情74
2.3物語理解における身体化認知と感情78
2.4まとめ一物語理解と感情80
第4章 感情の神経科学[船橋新太郎]85
1心の表現としての感情85
2「泣くから悲しい」のか,「悲しくて泣く」のか86
3視床下部と感情表現88
4扁桃体と感情9i
5前頭葉眼窩部と感情96
6他人の感情はどのようにして理解されるか104
7まとめ107
第II部●感情の発生111
第5章 乳幼児における感情の発達[板倉昭二]113
1感情の発達113
1.1子どもは待てるか113
1.2感情知能(emotional intelligence)114
1.3感情を構成するもの115
1.4感情出現の理論116
2感情の出現117
2.1肯定的な感情(positive emotion)118
2.2否定的な感情(negative emotion)120
2.3自己意識的感情121
3感情の理解125
3.1他者の感情の同定125
3.2感情を引き起こす原因の理解128
3.3本当の感情と表出される感情の違いの理解131
3.4感情の同時性および両面性の理解132
4感情の調整133
4.1感情調整の発達134
4.2文化と子どもの感情の発達136
5まとめと展望137
第6章 感情の成長情動調整と表示規則の発達[子安増生・田村綾菜・溝川藍]143
1はじめに143
2表示規則の発達144
3乳児期146
4幼児期147
4.1幼児期初期の情動調整のはじまり147
4.2幼児期の情動調整の認知的要素149
4.3幼児期の情動調整と対人関係154
5児童期155
5.1表示規則の理解155
5.2表示規則の実験的観察158
5.3情動表出を調整する動機159
5.4情動表出を調整する方略160
5.5情動表出の調整の性差162
5.6児童期の情動調整と対人関係164
6発達過程のまとめ165
第7章 文化と感情一現代日本に注目して[北山忍・内田由紀子・新谷優]173
1感情を理解する際になぜ文化が大切なのか174
1.1文化的動物174
1.2文化化された感情176
1.3感情対処システムとしての文化177
1.4感情の文化心理学178
2文化と感情に次元はあるのか179
2.1文化の次元179
2.2感情の次元181
3感情の文化差一対人的関与と脱関与をめぐって184
3.1感情経験の強度は文化によって異なる184
3.2どのような場面で幸せは経験されるのか185
3.3どのような入が幸せを経験するのか188
4幸福の意味189
4.1日米での幸福の意味を探る実証研究190
4.2個人的達成と関係の実現191
4.3東洋における感情の陰と陽一バランス志向と包括的認知193
4.4日米での幸福の意味一実体と社会的プロセス195
5日本人の甘え,アメリカ人の甘え196
5.1日本とアメリカにおける甘え196
5.2人から甘えられることへの反応197
5.3人に甘えることの感情的帰結199
5.4甘え研究における今後の課題200
6結論と今後の展望201
第8章 感情の進化[藤田和生]211
1動物の感情体験211
2基本感情212
3派生的な感情215
3.1不公平感215
3.2思いやり217
4他者の感情の認識221
5自己の感情の認識224
6感情の進化のストーリー225
第III部●感情と生活235
第9章 感情と集団行動社会的適応性の観点から[渡部幹・小宮あすか]237
1感情の社会的適応性237
1.1感情の機能と適応性239
2感情と社会環境240
2.1社会の構造複雑性と感情241
2.2情報価値と感情243
2.3感情制御と名誉の文化244
3感情の社会的合理性247
3.1裏切り者に対する怒りと懲罰行動247
3.2集団意思決定における感情252
4おわりに255
第10章 感情と描画[角野善宏]259
1はじめに259
2感情とは261
3感情と描画の関係から一事例を通して263
3.1自由画からの事例264
3.2風景構成法からの事例269
3.3身体疾患の事例から277
4おわりに282
第11章 夢における感情と自我[河合俊雄]285
1臨床心理学における感情285
2神経症圏の感情287
2.1不安288
2.2焦燥感291
2.3罪悪感292
3神経症の人の夢からみた感情の機能293
4神経症的感情の歴史的位置づけ297
5心理療法における感情298
6重い病理における感情300
7自我の感情と夢イメージの感情303
第12章 感情と心理臨床一今日の社会状況をめぐって[伊藤良子]307
1「全体的存在」としての入間と感情の様態308
1.1感情の多様なあらわれ方と「心理化」308
1.2抑圧の作用312
1.3複雑で念入りな防衛313
1.4不安感の直接的あらわれ3i5
2身体化について317
2.1神経症の水準317
2.2心身症の水準318
3行動化と幻覚・妄想320
3.1行動化について320
3.2統合失調症と行動化322
4象徴化と他者の機能323
4.1人間の本質としての象徴化323
4.2他者の機能一心の器・身体像・感情の分化・言葉の誕生324
5遺伝子から学ぶ人間の感情326
第IV部●討論会・感情科学の未来331
はじめに:「感情科学」とはなにか/出席者の構成/感情を定義する難しさ/感情と認知・感性・行動/2っの感情:感情と情動/感情はなぜ必要か/ロボットを用いた感情発達のモデル化/感情の個別性/感情の認知なのか,感情が起こっているのか/感情と感性評価/情動,気分,感情/芸術への情動の反映/色と感情:動物と人間の場合/動物の感情/感情と社会適応/感情の個体発生/感情の進化/意思決定から感情を探る/感情科学の課題
索引(人名索引・事項索引)389

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